インタビュー

連載インタビュー企画:「ブロックチェーンゲームの現在地」第二回 スゴロックス西山氏

いま、ブロックチェーンゲームはどこにあり、そしてどこへ向かうのか。

第二回となる今回は、スゴロックス株式会社代表取締役の西Pこと西山 泰弘氏へのインタビューを通じて、その現在地を探っていく。

  • インタビュアー:奥田(GameWith NFT代表)

ブロックチェーンゲームの現在地:第1回はこちら


アプリゲーム「魁 三国志大戦」で目指したゲーム体験

魁 三国志大戦 公式サイト


奥田 早速ですが、「魁 三国志大戦」で目指されたユーザー体験についてお聞かせください。

特に、プラットフォームをアプリにしたという大きな変化があったかと思いますが、そのあたりを踏まえて、どのような体験を目指して制作されたのでしょうか?

西山 僕らが今回目指しているのは、まず「対戦ゲーム」であること。まずは戦略性に特化する方向で、ある意味で割り切った設計をしました。

「デッキを組むこと」自体を楽しめるように、ゲームの“カロリー”をそちらにシフトしたんです。

カードゲームって、基本的には「自分でカードを持っていないと使い方が分からない」、つまり「カードを買え」っていうゲームなんですよね。

僕は別に、「一通りカードを試せるモード」を用意することもできますし、そういう試みをしたこともあります。でも、それってちょっと違うんですよ。“別のモード”として用意するよりも、遊びの中で自然にそういう体験ができる仕組みを作るべきだと思っているんです。

その仕組みを、三国志という世界観の中で、「武将を登用する」というテイストで実現しました。

現状、我々が出しているのは「司隷(しれい)」という地域だけですが、将来的には「西涼(せいりょう)」で董卓系のキャラが出てきたり、「涼州(りょうしゅう)」では馬が強い部隊がいたり、「華北(かほく)」には袁紹的な勢力が登場したりと、地域ごとに特色を持たせたいと考えています。南の方には南蛮がいるかもしれない。

これは、三国志という題材じゃなければできないゲームで、プレイヤーをのめり込ませるために設計しているわけです。

ただゲームセンターで遊んでいた人たちから「これは違う」と、ものすごく怒られたんですよ。「全然違うじゃないか」と。

多分、ゲームセンターの人はこの話を見ないと思うので、正直に言いますけど、本当にたくさん言われました。違うとわかっていて作っているのに、「違う!」って怒られるんです。

本気で、ゲームセンターの体験を世界で一番再現したいと考えていたのは、他ならぬ僕自身なんですよ。でも、それができなかった。だから別の方法で、コンシューマーやモバイルというデバイスに最適化して、三国志の世界観で新しいゲーム性を作ろうと考えたんです。その柱が、今のゲームエンジンなんです。

過去のインタビューで唯一話していなかったことを挙げるなら、「ゲームセンターって100% Pay to Play で、しかも時間も拘束される。だけど、その分、最高のパフォーマンスが発揮できる場所」だということです。

僕らのゲームは、いつでもプレイできるし、ながらプレイもできる。最初のハードルも下げたいと思っています。そして、その中で階段を作っていって、いろんな遊び方が生まれていく。

つまり、これは全く別のゲームなんです。

脳に汗をかくようなゲームがやりたい人、きっといると思うんです。僕自身がやりたいから、そういう人たちにこそプレイしてもらいたい。

奥田 実際、ユーザーからの反応はいかがですか?我々もブロックチェーンゲームに近い領域にいますが、ブロックチェーンゲームのユーザーさんって、わりと“あたたかい”感じがしますよね。

西山 本当にあたたかいです。

今回はランキングで、明確に「トークンリワードがあります」と発表しているんですが、上位ランカーの方たち、すごく上手な人たちが、本当に丁寧に教えてくれるんですよ。

特に、「VCチャット」っていう、Discord内のインナーチャットがあるじゃないですか。みんなYouTubeやTwitch、Mirrativなんかで配信してるのもすごくいいんですが、それって自分のアカウントの話になっちゃう側面もありますよね。

でも、VCチャットって、もっと“中のコミュニティ”なんですよ。あれが本当に、ホスピタリティの塊というか、「この村に集まりたい」って思わせるような場所です。

あれだけの人数が集まって、誰かの対戦を見ながら、「えー、そうなの!?」「これ知らなかった!」とか、「なるほど、そういう戦い方があるのか」って、みんなでリアルタイムに議論してるんです。

実際にDiscordの中で、「こんなに人数が集まって、こんなに活発に議論してるゲーム、見たことない」って言ってもらえたくらいなんです。

僕自身、今回が初めてのブロックチェーンゲーム開発だったので、最初はそこまで想像できていなかったんです。これは本当に、僕だけじゃなくて、DJTの開発メンバー全員にとって、ものすごく大きな支えになっています。

誇らしいというか、ありがたいというか……今のこの状況、本当に感謝しています。

奥田 そういう意味で言うと、当初目指されていた「体験」、特に「対戦の深さ」みたいな部分はもうユーザーの皆さんに届いているという感覚はありますか?

西山 届いていると思います。スルメみたいに噛めば噛むほど味が出るような感覚、そういうのが確実に伝わっていると思っています。

今後、州(地域)が増えて、カードが増えて、計略の種類や特技のバリエーションも増えていく。そうなると、さらにゲームの奥深さが広がっていきますよね。これは、もはやブロックチェーンとかクリプトの話じゃなくて、純粋に「ゲームとして」の話なんです。

それを楽しみにしてくれている土壌が、Discordを通じてしっかり根付いていて、X(旧Twitter)などで熱心に参加してくださっている方々も、きっとそれを感じ取ってくださっていると思います。

「魁 三国志大戦」公式Discord


ゲームとブロックチェーンとの距離感

奥田 現在、あまりブロックチェーン的な要素を前面には出さずに運営されている印象があります。(インタビュー当時:2025年5月)

その今の距離感、「ブロックチェーン要素はこのくらいの分量にする」という形に至った背景には、いろいろとお考えがあった上で、今のスタイルに落ち着かれたということでしょうか?

西山 そうですね。まず、僕のブロックチェーンに対する捉え方ですが、「ブロックチェーンという“システム”を使いこなす」という感覚なんです。

僕はゲームクリエイターですから、ゲームを作るし、体験を作る。そこに「ワクワク感」つまり熱量がなければ、システムってあまり意味を持たないと思っているんです。

先ほどお話しした通り、僕たちはゲームとしての熱量をまず作っている。三国志という世界だからこそ、「武将への期待」や「ユニットバトルの面白さ」など、ゲームとしての期待がある。

その上で、ブロックチェーンというシステムを使えば、たとえば「カードが資産化できる」といった形で、マーケットプレイスで売買できるとか、あるいは「ウォレットからウォレットへカードを転送する」みたいなことも可能になりますよね。

これは、実はアナログのカードゲームでは、当たり前に行われていることです。アナログでは当たり前。でも、デジタルではブロックチェーンがないと、それができないんですよ。

だから僕は、「デジタルならブロックチェーンを使いこなすのが当然だろう」と思っているんです。

初期から、「カードを持っていないのに交換って何なんだ」っていう意見もあったりして、そういうところも含めて、機能は段階的に開放しています。

次に「トークン経済圏」の話ですが――

ブロックチェーンの経済圏を作っていると、純粋にゲームを楽しんでいる人も当然いる一方で、ゲームとは関係なく「トークンの価値がどうなるか」にだけ注目して勝手に期待している人もいるわけです。

でも、トークンの価値が上がるか下がるかは、そのゲームが活性化しているかどうかにかかってるんです。

だから僕の考えでは、ゲームの経済圏がしっかり活性化していれば、その外にあるトークンの経済圏が“リワードとして降ってくる”状態になる。それって、ゲーム側にとっては単純に「得」なんですよ。

逆に、ゲーム側が活性化すれば、トークン経済圏の人たちも動き出す。そういう循環が僕の中のトークン設計のイメージです。

でも、それって裏を返せば、「ゲームをやらないなら、売っちゃえば?」っていう話なんですよ。だから僕は、「ゲームをやらない人にまで気を使う必要ってある?」って思うんです。

勝手に経済圏を作って、リワードだけもらって、結局ゲームをやらない人が「わからない」「面白くない」と文句ばかり言っていたら、正直困るんです。だって、ゲームってルールがあるわけですから。

「サッカーやろう」って言ってるのに「バット使えないの?」とか、「なんで自分にパス来ないの?」とか言われても困るでしょ。だから僕にとっては、ゲームをやらない人たちが存在する経済圏は、現時点では関係ない。

もちろん、僕らとしては、その経済圏の人たちもゲームに巻き込もうとは思っていますよ。アプローチはします。でも、さっきも言ったように「脳に汗をかく」ようなゲームをやりたくない人には、しょうがないです。

「ガチャガチャ操作してパンチを決めたい」とか、「ゲームのルールを覚えたくない」「パラメータを覚えたくない」って人は、カードゲームには向いてないんです。

このゲームでは、勝ちたければめちゃくちゃ覚えないといけない。でも、僕たちは「覚えて楽しい」と思ってもらえるような体験を、無料でも提供しようとしている。

「うわっ気持ちいい!」って思ってもらえるように、魅力あるゲーム設計にしてるんです。

僕自身、スポーツでいえばサッカーはやっていたけど、ラグビーはやらない。そういう風に、ユーザーも自分の“可処分時間”や“可処分所得”の中で、選択していくべきなんです。

だから、「万人がやってください」とは全く思っていないし、そんなの無理です。

何かというと、「ブロックチェーンゲームって流行ってないよね」って言われるじゃないですか。でも、僕はそういう中で、端っこの方で頑張ってるわけですよ。

「こうやって使えば、うまくいくんじゃないか?」と試行錯誤して、めちゃくちゃ頑張ってる。

トークンとの関係で言えば、一つのキーワードが「ステーキング」です。

僕らはトークンを「ゲーム内でも使える形」「保持しているとコミュニティ内で特別な体験ができる形」にしようとしてる。今後の拡張要素でも、トークンを「魁 三国志大戦の株式」みたいに捉えて、それを多く保有している方の意見は、当然ながら反映されるように設計するつもりです。

たとえば、みんなで何かを決めるとか、ルールを作っていくとか、そういう中で、ステーキングしている人には、しっかり価値を提供していく。

でも、今この時点では、まだ必要ないんです。今はその「階段」を作っている最中でステーキングも、ちゃんとその段階が来たときに導入する。そして、そうするためには、まず「今のゲーム」がしっかり存在していないといけない。

ちなみに、この「ステーキング」や「トークン経済圏」の話を、僕の口から公に話すのは、今日がほとんど初めてに近いと思います。

なぜなら、これを先に話しすぎると、“うさんくさく”見られてしまうから。

だから、GameWith NFTさんのインタビューだからこそ、初めてこういう形で話したんです。僕らはMMORPGみたいに、最初からドーン!とリリースするゲームじゃない。

『原神』や『FF』、あるいは『スプラトゥーン』のような一気に勝負をかけるゲームでもない。僕らは「コミュニティと一緒に、ゲームを成長させていく」。それが正しいと信じています。

ニーズを捉え、「階段」をひとつひとつ作っていく。

その中で、NFTであることの“トレーダブルな武器”という利点、トークン経済圏という別のロジック――それらを新しいゲーム体験として使いこなせるかどうかは、僕やDJT、そしてプレイヤーの皆さんが、いかに「魅力的なものを作れるか」にかかっていると思っています。

奥田 イメージとしてはNFTはリアルカードゲームに近い文脈での使い方を重視されていて、トークンに関しては、これからステーキング等の設計を含めて展開していくフェーズという理解でよろしいでしょうか?

西山 はい、そうです。

一つお伝えしておくと、これは完全に僕の話ではないんですが、DJTって、日本で最も老舗のブロックチェーンゲームカンパニーの一つなんですよ。だからこそ、当然ながら大きな仕掛けを準備しています。

これは、西山が何かを握っているというわけではなく、僕が関わっているというポジションを活かして、何か動いている可能性もあるかもしれません。

奥田 トークンという意味でも、NFTとはまた別の大きな仕掛けが、今後用意されているということですね。

西山 はい、ここはハードルを上げていきましょう。


ブロックチェーンゲームの市場概観について

奥田 今回、ブロックチェーンゲームというジャンルに初めて挑戦されたとのことですが、現状のブロックチェーンゲーム市場をどのように見ていらっしゃいますか?

西山 そうですね、僕がこの領域に入る前の印象としては、すごくシンプルな話なんですけど、要は「お金」が関わっているから複雑になっているんじゃないかと思っています。

たとえば、わざわざ「Web2」と「Web3」とか言ったり、「CEX」「DEX」って言ってみたり、「バース」「レイヤー1」「レイヤー2」とか、「EVM系」だの「○○系」だの……

でもね、僕が本当に思うのは、そういうこと言ってる人たち、たぶんゲームやってないと思うんですよ。

ゲームって、「武力」とか「知力」っていう概念がちゃんとあるんです。強さは「武力」だとかね。『ドラクエ』とかだと「ちから」や「すばやさ」ですよね。

僕らは「武力」とか「知力」って言ったりする。

奥田 パラメーターのことですね。

西山 そう。それで、そういう話にもつながってくるわけです。

だから僕が思うのは、ブロックチェーンとゲームが、こういったことで悪い方向に印象づけられちゃってるんじゃないかと。少なくとも、僕がこの業界に入る前はそういう印象がありました。

それを、いかにして「わかりやすい言語」で伝えるか、を今は考えているんです。ゲームをしていれば、なんとなくわかると思うんです。

謎の集団が勝手に経済圏を作って、トークンをリワードとして配っている。でも、ゲームが盛り上がれば、結果としてその人たちも得をする。そういう関係性ですよね。

たとえば、アナログカードゲームだと「交換」が普通に行われている。でも、デジタルではそれができなかった。それがブロックチェーンのおかげで、デジタルでも「アナログと同じような体験」ができるようになった。

デジタルなら「詐欺」や「ため取り」のような問題も、履歴が残るから防げる。そういった安全性のある取引ができるようになったのが、ブロックチェーンの良さだと思っています。

奥田 必要以上に難しい言葉を使いすぎているのではないか、と。

西山 それは、Defiとか、金融系の話になると、特にね。

でも、頭の良い使い方をしている人たちもいて、たとえば「SNPIT」のメンバーとか、僕すごく好きなんですよ。本当に“ピュアな延長”でやっていて、あれはあれで素敵な世界観があると思っています。

“走る”系のプロジェクトとか、健康とつなげているのもいいなと。

ただ、あの仕組みって、「(難しく見えて)どうなっているんだ?錬金術か?」と思ったりしますよね。僕はそこじゃなくて、「ゲームが楽しい」「覚醒させたい」「カードパック買いたくなる」――

そんな自然な流れの経済圏を作りたいだけなんです。

あとは、今回「旗」とかも出しましたけど、カスタム要素ってまだ出してないですよね。

でも、オリジナリティを出すために「コスチュームにお金を使いたい」と思ってもらえる、そういうゲーム内の自然な経済圏。それが僕の目指すところなんです。

そういった意味では、本当に「もったいないなあ」って思ってるんですよ。みんな、もう少しシンプルに捉えてくれればいいのになって。


BCGとコミュニティ

奥田 少し前のお話にも出てきた内容と関連するのですが……DAOがお好きだとおっしゃっていましたよね。

ブロックチェーンゲームにおいては、特に「コミュニティ」の存在が非常に重視される文化があると思います。この辺りの文化について、どう思われますか?

西山 むしろ僕にとっては、そこが一番大事なんですよ。

「DAO」って言葉自体が好きなんですけど、それって結局は「仕組み」なんですよね。

僕はこれまで、いわゆる「Web2」と呼ばれる世界でゲーム運営をしてきました。

いくつかのゲームでは、本当にファンの皆さんに支えていただいて、素晴らしいコミュニティができていました。

でも、当時は「リワードを返す」という文化はなかったんです。

リワードといえば、せいぜい「プロモーション費」として何かを渡す程度でした。

今は僕も独立しているので、ある程度自由に動ける立場ですが、一部上場企業やプライム市場に上場している企業では、ちゃんと勘定科目があって、「事業収益の何%をプロモーションに充てるか」みたいに決まってるんですよ。

でも実際には、コミュニティに支えられている部分が一番大事だったりするんです。

ただ、「プロモーション費」って、通常は外からユーザーを獲得するための費用ですよね。

でも、本当に大事なのは「すでに応援してくれているファン」の方々なんです。

新規ユーザーが来たら教えてくれて、ゲームの世界を舞台にコミュニティを作ってくれて、自主的に大会を開催して、時には自分の持ち出しでリワードを提供してくれる。

僕、そういう人たちは“神”だと思ってるんです。

でも、Web2の世界では、そういう方々に対してこっそり「ありがとう」と伝えるくらいしかできなかった。ネットで表立って何かすることも難しくて、むしろ別のコミュニティが出てきて「うちもあるぞ」となってしまったりする。

でも今回、逆に言えば、「これだけの規模の大会を開いてくれるなら、運営費が必要ですよね?」と。だったら「トークンを渡しますよ」と言いたい。だって、大会運営って本当にカロリーがかかるんです。

もし、その人がステーキングしてくれていて、大会も運営してくれているなら、「限定ロール(役職)を差し上げたい」と思ったりします。でも、これがWeb2だと、ただの絵空事で終わっちゃうんですよね。

僕たちは、自社のアセット、つまり本来はお金を払って手に入れるデジタルアイテムをリワードとして出しているのに、個人が大会を開くときには「自腹でやってください」って言ってるわけですよ。

それっておかしくないですか?それが、僕にとっての「ユーザーとの向き合い方」であり、「フェアネス」なんです。だから僕は、ここにすごく期待しています。

極端な話、僕がゲームを作り始めてから25年くらい経つんですけど、ずっと後ろめたかったことが、やっとブロックチェーンによって解決できるようになった。

「すげぇ、ブロックチェーン」って、今は本当に思ってます。

奥田 開発者側からユーザーへのコミュニケーション手段として、リワードが使えるというのは、かなり大きなことですね。

西山 そうですね。僕自身、ゲーム運営もしていれば、新しいバージョンの開発もしてるし、マーケティングや制作にも関わっていて、それに加えて各社のPL(損益計算書)との向き合いもあるわけです。

本当はもっと、大会運営とかに時間をかけて、企画を練ったり、いろんなことをやりたいんです。

でも、やっぱりユーザーさんって、自分たちがやりたいことをやるんですよね。ユーザーにとって良いと思うことを、自発的に行動してくれる。その中には、ユーザーの時間を使ってもらったり、場合によってはお金をかけてしまうこともある。

それって実はユーザーの中にいくつも「群(コミュニティ)」があって、僕らが手を出すよりも、はるかにユニークで面白い取り組みが生まれる可能性があるんですよ。

もともと日本って、MOD文化があまりないんですよね。でも、これ(DAO)はまさにMOD文化なんです。

僕らが提供しているゲームのアセットを使って、自分たちでルールをモディファイして遊ぶ。『ストグラ(ストリートファイター×グラブル)』なんかも、そういう発想に近い。極端な話、『カウンターストライク』だって、『ハーフライフ』から生まれたMOD文化の産物ですよね。

これは、いわゆるPC文化です。でも日本は、コンシューマー大国なんですよ。つまり「ROMで提供されるゲーム」文化が強い。ROMの特性上、MODができないんですよ。でもようやく、日本もそういった「ハードウェアや文化的な束縛」から解放され始めて、独自のニッチが強くなってきてる。

たとえば、Vtuber文化がこれだけ流行ってる国って、日本くらいですよね。

すごく小さなファン層から始まって、じわじわと成長していって、気がついたらフォロワーが爆発的に増えてる。そういうニッチでデジタル的な厚みのある文化の塊って、日本独特のものだと思います。

もちろん、任天堂さんとか、僕の前職の会社とか、コンシューマーでグローバル展開して大成功しているのは、初期から面白いゲームを展開している彼らのおかげなんです。それがあるから、日本のゲーム産業はここまでスケールしてきた。

でも、逆に言えば、そうした日本メーカーの強さがあったからこそ、MOD文化やUGC(ユーザー生成コンテンツ)、DAOのような文化は育ちづらかった側面もある。コンシューマーはロムなのでプレイヤーにそういう裁量を持たせづらい側面があるので。

とはいえ、僕らはクリエイターとしてユニークな発想を持ってるし、その中でサービスを提供してきた。大会やコミュニティといった領域にもアプローチしてきましたが、まだ「向き合いきれていない」と感じるんです。

今までは「プロモーションの一環」として見られていたかもしれませんが、本当は「一緒に作ろうぜ!」っていうMOD的な発想が大事なんです。僕が、忙しい中で現場に担当をつけて、企画を精査して、「よし、これで大会をやろう」と決めたとします。

でも、ユーザー主導のマーケットでは、僕らの何十倍ものバリエーションを持った企画が、すでに試されてるんですよ。それには、試しているだけの理由と価値があるんです。

僕は、そういうふうに考えています。


BCGとFT(ファンジブルトークン)

奥田 次の質問は「ブロックチェーンによるファンジブルトークン」がテーマなんですが、お話を伺っていると、トークンを“エコノミー(経済)”として成立させるというよりも、ゲームメーカー側からユーザーに渡す“リワード”のような立ち位置で使うような形を模索されている印象を受けました。

西山 そうですね、まさにその通りです。僕らは「Gamer First」を大前提にしています。

ライトペーパー(ホワイトペーパーの要約版)にもそう書いていてROMの更新などで内容に間違いも出てきてしまっているのですが、ただ、本質は変わっていません。

Gamer First、つまりゲーマーを最優先に考えるんです。

ただもちろん、皆さんがトークンを使っていく中で、たとえば「外馬(アウトサイダー的な予想・観戦)」みたいな文化が生まれるとか、「このゲームを遊ぶゲーマーに対して、こういう刺激を与えてみたら面白いかも」というようなアイデアが、トークン経済圏の方から出てくる可能性もあると思っています。

でも、そういうのって無理に混ぜなくてもいいし、逆に「混ざりたい人」は自然に混ざればいい、っていうスタンスなんです。

奥田 つまり、トークンを持っているユーザーと、ゲームを遊ぶユーザーを、ある種“切り分けて設計”されている、ということでしょうか?

西山 基本的には、切り分けています。でも、ゲーマーで上手い人は、結果的にトークンも持つことになりますよ。ランキングリワードとしてトークンが与えられる仕組みなので。

だから、混ざる“きっかけ”は作っているんです。

でも実際に混ざるかどうかは、僕らが「混ざれよ」と言うものではなくて、「選ぶのはユーザー」という考え方です。僕たちは“枠組み”を提供していて、その中でできることは、ユーザーが自由にやっていいと思ってます。

極端な話、もしバグが出て、そのバグを使って勝ったとしましょう。でも、それが“枠組みの中”で起きたなら、仕様として受け入れざるを得ない場合もあるわけです。

ただし、それが「既知のバグ」で「使ってはいけない」と明示されたものであれば、話は別です。不正プレイに関しては、当然常に監視していますし、悪意のあるBOTやチートなどには、徹底的に対処します。

そういう意味では、僕の中でのスタンスはとても明確です。


「魁 三国志大戦」のこれから

奥田 「魁 三国志大戦」のこれからについて伺いたいと思います。

今の“柱”となっている部分から、段階的に“階段”を上っていくというイメージで間違いないでしょうか?

このあたりはホワイトペーパーに書かれている通りの想定で進めていく形になるのか、それとも、今後さらに内容が変わってくる可能性もあるのか、お聞かせください。

西山 僕は「5年間やる」と公言しています。

僕の中に「IP(知的財産)は5年」という考え方があって、大きくシリーズを変えない限り、少なくとも5年間は『魁 三国志大戦』というシリーズで、しっかりとサービスを続けたいと思っています。

もちろん、それはお客様に人気があり続けるという前提にはなりますが。

5年後には、それが「鉄筋コンクリートの家」みたいになっているかもしれないし、「沖縄のリゾート近くにある海辺のペンション風の家」かもしれない。あるいは「プール付きのシェラトンホテル」みたいになっているかもしれない。

ただ、それを「今この時点でこうする」と僕が決めてしまうのは、すごくおこがましいことだと思っていて、そもそも「ユーザーと一緒に作っていく」と言っている自分の姿勢と矛盾するんですよね。

だから、唯一ユーザーの皆さんにお約束できることがあるとすれば、「うちの体力が続き、サービスを継続できる限り、僕は5年間、皆さんを飽きさせないためのアイデアを提供し続けたい」ということ。そして、皆さんのアイデアも取り入れて、そこから新しいものを生み出していきたいと思っています。

すでに、追加予定のアセットのイメージや、新しいモード、遊び方の案など、いろいろな構想を持っています。これは他のインタビューでも言っていますが、2年半くらいまでは、自分が「やりたい」と思っていたことはある程度準備できています。

そして、そこから先はユーザーの皆さんの意見を取り入れていきたいと考えています。

奥田 このタイトルは「コミュニティドリブン」で進めていくことを、非常に重視されているんですね。

西山 絶対にそうです。

僕自身はプロデューサーとして発信もしていますし、いろんなアイデアを取り入れたり、精査したりしていますが、実際に作っているのは、DJTが本当に頑張ってくれているんです。

そして、今いろんなアイデアを、本当に多くのユーザーさんからいただいています。「なるほど、そんなやり方があったのか!」と、僕が驚くことも多いですね。

Discordを見ていただければ分かりますが、時には開発チームが気づいていないバグを、ユーザーの方が見つけてくれているんですよ。それって、もう“ゲーム開発”ですよね。本当に、そういう感覚でやってます。

奥田 今後、そういった貢献に対して、トークンがリワードとして渡される、なんて可能性もあるんでしょうか?

西山 そうですね。

でも、実はWeb3のゲームを愛しているプレイヤーさんほど、「俺たちはトークンがもらえるからこのコミュニティに参加してるんじゃない」と言うんです。

「そんなのやめてくれ」と。……もう、めちゃくちゃ“キュン”としますよね、この会話。本当に嬉しいですよ。「違うよ、西P。ちゃんとやれよ」って言ってくれるんですよ。

僕も、「もちろんやります」って言ってるし、いろんな質問にもちゃんと答えてる。「参加したいから参加してる」って言ってくれる。

逆に僕はプロデューサーという立場なので、たとえばX(旧Twitter)とかでは、いろんな誤解や曲解が起きることもあります。

でも、Discordでは一切そういうことが起きない。変な使われ方もないし、ちゃんと建設的な議論が行われている。

ただ、やっぱり僕がプロデューサーだから、どうしても「ポジショントーク」に見られがちなんですよね。立場があるからこそ、「そういう風に言ってるんでしょ?」と思われてしまう。でも、Discordにいるユーザーさんたちは、「それは西Pが答えちゃダメだよ」と裏で言ってくれたりする。「そういうことじゃないんだよ、俺らがコミュニティをまとめるから」って。

……もう、めちゃくちゃキュンときますよね。

奥田 そのくらいの熱量って、なかなか見られるものじゃないですよね。

西山 本当にそうです。だからこそ、心の底から「頑張ろう」って気持ちになります。

これはもう、「クリエイターとして」という次元じゃないんですよね。“人と人として”ちゃんとつながっているという実感がある。

僕が得意なのは、ゲームやサービスを作ることですから、そのフィールドで、ちゃんと応えたい。人として、そういう気持ちになっているんです。


今後のご活動と、そのトピック

奥田 「魁 三国志大戦」に直接関わる内容でも、間接的に関わる話でも構いませんので、今後の活動のトピックについて、何か教えていただけることがあればお願いします。

先日、トレーディングカードゲームのような新しいタイトルのお話も少しされていましたが、そのあたりも含めて、何かご共有いただけることがありますでしょうか?

西山 まず私自身としては、起業当初からこの『魁 三国志大戦』のプロデューサーを務めています。

それとは別に「ジョーカーズ」というプロジェクトにも関わっていて、こちらは今年の2月か3月頃に発表しています。アメリカのイベントでですが。

ジョーカーズでは、Suiチェーンをベースにしたコミュニティ主導のさまざまな取り組みを行っていて、そのSuiチェーン上に乗るブロックチェーンゲームとして、セガさんから『コード・オブ・ジョーカー』のライセンスを受けて展開しています。

このタイトルも、三国志と同じく、私がセガ時代に立ち上げたものでして、今回はその知見を活かして、新たにSuiチェーン上でデジタル・トレーディングカードゲーム(TCG)として運営中です。

引用元:Jokers株式会社プレスリリース
Jokers株式会社 公式サイト

……ただですね、ここだけの話なんですけど(笑)。

僕、ちょっと『魁 三国志大戦』に本気になりすぎちゃいまして。もともとジョーカーズで使おうとしていた企画を、いっぱい『魁 三国志大戦』の方に入れちゃったんですよ。

4月からDJTの仕事を正式に受ける形でやってるんですけど、ジョーカーズには、セガ時代からずっと関わっていて、立ち上げから深く関与していました。

でも『魁 三国志大戦』のプロデューサーとして動く中で、ジョーカーズで使う予定だったアイデア――たとえば「バトルロビーの構想」とか、「トークノミクス(トークンエコノミー)」の仕組み、ランキングリワードの設計とか――そういうのを、先に『魁 三国志大戦』の方で実装しちゃったんです。

今何が起きているかというと……「コード・オブ・ジョーカー」に入れるネタが足りない、という状態です(笑)。

プロデューサーなので、当然ながら「出す時の企画」はものすごく大事にしています。ユーザーさんが「遊戯王」だったり、たくさんある中で、自分たちのタイトルを選んでもらうための勝負どころじゃないですか。

……やっべぇ、『魁 三国志大戦』にネタ使いすぎた……と、今かなり焦ってます。

だから今、一生懸命、新しいアイデアを考えてます。

でも、『魁 三国志大戦』の運営があまりに大変すぎて、その“考える時間”がなかなか取れない、というのが正直なところですね。

奥田 では、コード・オブ・ジョーカーの方も、さらにバージョンアップした新しい展開があるということでしょうか?

西山 そうですね。しっかりと取り組んでいくつもりです。

ただ、僕はプロデューサーとして、現場でずっと仕様を決めたりチェックしたりというよりは、マーケットと向き合いながら大きな判断を下したり、戦略的な発信を行ったり、あるいはお金の話を含めて舵を取っていくのが役割になります。

もちろん、『魁 三国志大戦』の勢いを落とすようなことは絶対にありません。

僕の中では、常に「4タイトルを立ち上げて運営する」というスタイルがあって、同時に4本のプロジェクトを立ち上げて、運営していくのが自分のスタイルなんです。

これは、2003年ごろからずっと続けてきたスタイルです。セガ時代も、『三国志大戦』『ハウス・オブ・ザ・デッド』『モノポリー』『アミー漁』に加えて、『ドラゴントレジャー』のバージョンアップも、すべて僕がプロデューサーとして手がけていました。

どれも、ゲームセンターではそれなりに存在感のあるタイトルです。

奥田 それぞれに強い存在感がありましたよね。

西山 『maimai』を作りながら、『チェインクロニクル』もやっていた感じですからね。

だから、自分が複数プロジェクトを同時に進めることに、特別な違和感はありません。ただ、今本当に頑張ってくれているのは、坂本くんをはじめとしたDJTの開発チームです。

そして今、Discordでコミュニティが本当に活発になってきている。そこが非常に大きな力になってます。

僕は、その中で必要に応じて、時には開発寄りに、時にはマーケティング寄りに、柔軟に立ち回りながら動いています。ジョーカーの方も、しっかりと自分の役割を果たして、良いサービスを提供したいと思っています。

それに、これは『大戦』シリーズ含めて全体に言えることなんですけど、今回ブロックチェーンでDAOの話が出たのもすごく嬉しかったですし、僕がゲームを通じて一番作りたいのは「ユーザー同士の絆」なんです。

やっぱり、それがゲームの持つ最大の価値だと感じていて、今後もそういった“絆”を生み出せるような仕様は、必ず盛り込んでいきたいと思っています。

奥田 お話を聞いていると、この2本以外にも、さらにもう2本……4本あるということですね?

西山 はい、そのあたりは、ぜひ今後を楽しみにしていてください。

あまりに多くのことを同時にやって、「結局、力が分散してるんじゃないの?」と見られてしまうのは避けたいので、一つひとつを、しっかりと、精神的にも大切に向き合っていきたいと思っています。

そして、どのゲームでも「好き嫌い」があっていいと思っています。全部のゲームで遊んでほしいとは全く思っていません。

それぞれのゲームは、それぞれのゲームとして選んでいただければと思っています。

奥田 本日は貴重なお時間をいただき、本当にありがとうございました。今後発表されるタイトルも、楽しみにしています。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

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