連載インタビュー企画:「ブロックチェーンゲームの現在地」第1回 スクウェア・エニックス畑氏
はじめに
米国でのビットコインETFの導入をはじめ、仮想通貨は資産としての市民権を獲得しつつある。一方で、NFTやブロックチェーンゲームはどうだろうか。
NFT市場はかつて1点5000万ドルで取引される派手な時代を迎えたが、現在ではその95%以上が価値を失ったとも指摘されている。市場全体の取引量は60%以上下落し、かつての熱狂は影を潜めつつある。
活況を呈した2021〜22年ですら、NFTの実用性やユースケースは試行錯誤の最中だった。
そして現在、NFTプロジェクトの多くが苦境に立たされていることは、依然として有効な解決策を見出せていないことの証左とも言えるだろう。
その解決策の一つとして有望視されていたブロックチェーンゲームも、特に日本市場においては、かつての希望に満ちた市場の様相を維持しているとは言い難い。
いま、ブロックチェーンゲームはどこにあり、そしてどこへ向かうのか。
本記事では、「ゲームクリエイター」「プレイヤー」「チェーン」という3つの視点から、業界のキープレイヤーたちと対談を行い、その現在地を探っていく。
- インタビュアー:S嶋(GameWith NFT編集長)
- モデレーター:奥田(GameWith NFT代表)

第一回となる今回は、スクウェア・エニックス/ブロックチェーン・エンターテインメント事業部 事業部長である畑 圭輔氏へのインタビューを通じて、その現在地を探っていく。
※肩書はインタビュー当時のものです。
目次
市場概観
奥田 現在のブロックチェーンゲーム市場について、国内と海外で状況が異なるとは思いますが、今の市場を一言で表現するとすればどのような状況とお考えでしょうか?
畑 この質問、どのようにお伝えしようかすごく悩んだのですが……私の考えでは「あくなき挑戦」ですね。
現在の各事業者の気持ちとしては、「前に進むべきか、立ち止まるか、やめるか」という迷いがある状態だと思います。しかし、それでも熱量を持って取り組んでいる方々は、次の未来を見据えて挑戦し続けています。
会社やビジネスという視点で見ると、「それって意味があるの?」となりがちですが、意味があるかどうかはやってみないと分からない。やってみて初めて分かることがあるので、「やらない」という選択肢はない、というのが社内でもよく話していることです。
結果が予測できることはなるべく避け、未知の領域に対して仮説を持ってチャレンジすることが重要だと考えています。
後ほど、実際に取り組んでいる事例についてもお話しできればと思います。
S嶋 ルールを作る側でもいらっしゃると思いますが、規制がある中で、スクウェア・エニックス様として次にどのような仕掛けを考えているのか、可能な範囲で教えていただけますか?
畑 コンテンツを作る際、どうしてもこれまでのモバイル市場で培ったフォーマットやノウハウに沿った作り方になりがちです。しかし、それだと正直、ブロックチェーンの要素が薄くなりがちです。
私が最初に「資産性ミリオンアーサー」を作ったときのコンセプトにもあるように、「NFTであること」をしっかり生かしたいと思っています。

例えば、サービスが終了してもNFTが残り続け、それを次のサービスで活用できる、というような仕組みです。オンチェーンコンテンツだからこそできることに非常に興味があります。
ただ、現状のゲームユーザーは「NFT」や「ブロックチェーン」、「トークン」と聞いても、あまり興味を持たれないのが実情です。そのため、いきなりオンチェーンコンテンツを出しても、受け入れられにくい。
そこで、まずはオフチェーンコンテンツの中で価値を感じてもらい、その先にオンチェーン化されたNFTを活用するような流れを作りたいと考えています。つまり、いきなりWeb3要素を押し付けるのではなく、自然な形でユーザーをオンチェーンの世界へ導くような設計が必要だと考えています。
この考え方は、「ギアプレス」や「GP(正式名称:Gear Point)」のプロジェクトにも反映されています。
ギアプレスとは?(外部リンク)奥田 最近の海外タイトルを見ていると、既存のリッチなゲームアセットにブロックチェーン的な要素を組み込んでゲームとして成立させるアプローチと、「TON」や「LINE Mini Dapp」のようにトークンを基軸とした、小規模なプロダクトからスタートするアプローチの両方が出てきています。
スクウェア・エニックス様としては、どちらのアプローチを重視していますか?あるいは、その中間を目指しているのでしょうか?
畑 事業経験から言うと、後者のアプローチには様々な視点で注目しています。
Web3の概念も含めて学んでいただくという観点では、まずはミニアプリのような形で、我々のIPやゲームを知らないユーザー層にアプローチできる点は注目しています。メッセンジャーアプリのユーザー層は非常に大きいため、その中で我々のコンテンツに触れてもらい、そこから深く関わってもらえる体験を提供できるかどうかが重要だと考えています。
AAA級のリッチなゲームにブロックチェーンを組み込み、「NFT発行ができ、マーケットで取引可能です」といった仕組みは既に多くのプロジェクトが取り組んでいますが、「ブロックチェーンが搭載されているからこその、新しいゲーム体験が生まれている」と感じてもらうためのナラティブな設計とともに提供し、新しい顧客層も開拓していく、という戦略ですね。
特に既存のゲームユーザーを巻き込みたい場合、ユーザーの心理としては、「ゲームを楽しみたい」のであって、「ブロックチェーン技術を使いたい」「NFTの価値が上がることへの期待」でゲームをプレイしているわけではありません。
そうした点を踏まえた設計が求められると思います。
S嶋 「LINE Mini Dapp」は、少しゲーム性があって、カジュアルゲームとして遊べるレベルにはなっています。最初はエアドロップ目的でプレイするんですが、気づけば少しハマっているんですよね。
ただ、どのゲームもまだ浅い部分があるように感じられて、1週間くらい本気でプレイすると作業になることも多い印象です。
面白いと思ったのはそうなると、「他に面白いMini Dappはないかな?」と探すようになり、ユーザーがプラットフォーム内の別のゲームに流れていく、という現象が起きています。
畑 確かに、表現はよくないかもしれませんが「キャンディ(アメ玉)」のように、舐めきったら次のアメ玉を探す……みたいな動きになりますよね。
私たちが目指している1つの形として、ブロックチェーンによって、コンテンツ拡張ができる仕組みだからこそ、ずっと楽しめる、楽しみ続けることでの自身の貢献が資産となっていくことを考えています。
長期的なエンゲージメントにつながるように、オンチェーンコンテンツとオフチェーンコンテンツをうまく使い分ける、という発想です。
オフチェーンのコンテンツはどうしても寿命があります。ゲームは基本的に飽きるものなので、10年、20年続くタイトルは本当に一握りです。そこで、「遊んだあとに残る資産を次のゲームに引き継げる仕組み」を実現することが大切だと考えています。
「ギアプレス」もこの思想で作られていて、「資産性ミリオンアーサー」が終了したあとでも、残った一部の種類のNFTをガチャチケットに変換し、別のゲームに活用できるようにしました。
今回は、自社コンテンツではなく、他社のゲームでNFTが使われましたが、本来はこれを自社も含め、広く利用できる形が理想だと思っています。
つまり、オンチェーンで発行されたNFTや資産が、特定のサービスに縛られずに活用できる仕組みを作るべき、という考え方です。
奥田 NFTは「永遠に価値がある」と言われていた時期がありましたが、その考え方にも疑問符がつく状況でもあるかと思います。
畑 そうですね。例えば、「(ゲームがクローズとしたとしても)ゲーム内で登場した装備品は、他のゲームで使えるじゃないですか」と言われることもあるのですが、本当にそれをイメージできているのか?どんな世界観を想定しているのか?と疑問に思うこともあります。
私は「ギアプレス」でこの考えを検証してみたく、実際に開発し、実装しました。
デジタル資産をそのまま持っていくのではなく、「思い出を焼却するかわりに、新しいものにコンバートする」という方法です。ポイントに変換して、それを使って次のゲームに移行できる仕組みを作りました。
奥田 その視点は、ずっとゲームを作ってこられた視点からの考え方ですよね。
現状、「NFTの価値が減衰する」という前提で開発されているケースは必ずしも多くはない印象があります。ゲームにはライフサイクルがあり、衰退期を想定した上で資産を引き継ぐ仕組みが必要だ、という考えはあまり見られません。
その点で、スクウェア・エニックス様の取り組みは、非常にユニークだと感じます。
ブロックチェーンゲームとコミュニティ
奥田 ブロックチェーンゲームの大きな理念として、「Web3的な思想」、非中央集権的でコミュニティドリブンという考え方があります。
これに対して、ゲーム運営のスタンスもさまざまです。完全にコミュニティ主導で運営する形を指向するケースもあれば、もう少し運営側が管理しながらコミュニティの意見を取り入れていく、というマイルドな形もあります。
複数のブロックチェーンゲームプロジェクトに取り組んでこられましたが、「ブロックチェーンゲームとコミュニティの関係」について、どのようにお考えでしょうか?可能性や課題などを含めて、お聞かせください。
畑 実際にサービスを運営する中で、お客様との対話の重要性を改めて感じています。
ブロックチェーンは「トラストレス(信用を必要としない)」と言われますが、実際にサービスを提供してみると、ユーザーは「誰が運営しているのか?」をすごく気にしている印象を受けます。
つまり、「どんな理念を持って、今後も続けようとしているのか?」という”人”の部分を見ている傾向があります。結果として、Web3の世界でも「誰がやっているのか?」によって、コミュニティのエンゲージメントが大きく左右されるのではないかと思います。
最近のWeb3プロジェクトでも、従来のようにプロダクトのティザーを発表するだけでなく、「誰が作っていて、どういう設計思想を持っているのか?」を前面に出すケースが増えています。
例えば「資産性ミリオンアーサー」では、開発者が積極的にユーザーと対話しながら運営したり、「SYMBIOGENESIS」でも、開発者がユーザーの前に出て考え方を発信しています。
こういった取り組みは新しいものではありませんが、結局のところ、「誰が作っているのか?」を信頼してもらうことが大切なのだと感じています。
例えば映画やドラマでも、脚本家や監督で作品を選ぶことがありますよね?「この人が作るなら面白そうだな」という期待感がある。
コンテンツそのものの企画の面白さも重要ですが、ブロックチェーンを活用したオンチェーンサービスの登場でサービス運営終了後も残る性質のデジタルアセットを扱うコンテンツにおいては、「誰が作ったのか?」をユーザーはより一層意識するようになってきていると思います。
そして、これはWeb3の文化と非常に親和性が高いとも感じています。
S嶋 「コミュニティ」と言えば、国内ではギルドの存在が大きいですよね。しかし、スクウェア・エニックス様は、ギルドとそこまで密接に関わっている印象がありません。
率直にお伺いしたいのですが、ギルドについてどう考えていますか?
畑 ギルドに関しては、プロダクトの方向性による部分が大きいですね。
例えば、「SYMBIOGENESIS」では、ユーザー自身が同じ目的などで集まり、ギルドを作り、ギルド同士で戦いながらアイテムを獲得するという遊び方もあります。
ただ、運営側がギルドに直接関与するというよりは、「仕掛けを用意する」というスタンスで考えています。
個人的には「ギルドに属することが前提になってしまうのは、必ずしも良いとは限らない」と思っています。
「ディスコードに参加してください」と言われても「そこまでやりたくない」、「X(旧Twitter)を見ているだけで十分」、こうしたユーザーも多いですし、最近は個人の影響力がどんどん強くなっていることもあり、「ギルドありき」ではなく、個人が自由に楽しめる設計も重要だと考えています。
S嶋 Web2のゲームでもディスコードに参加して、仲間とボイスチャットをつなぎ、画面共有しながらプレイすることが普通になっています。これはスマホのソーシャルゲームでも、PCゲームでも同じです。
ただ、Web3ゲームの場合、それ以上に情報交換をしないとついていけないという側面があります。
攻略サイトが豊富にあるわけでもなく、X(旧Twitter)上にも十分な情報が出回っていないため、「コミュニティ内の声の大きい人が発信する情報に基づいて、プレイヤーが行動を決める」という傾向が強いです。
実際、Web3ゲームのユーザーに「今、一番流行っているWeb3ゲームって何?」と聞いたら、おそらくみんな(コミュニティによって)違う答えを返してくるでしょうね。
畑 「LINE Mini Dapp」や「TON」のゲームは、現状、両社プラットフォームのユーザー間のつながりもリアルグラフとバーチャルグラフで異なることもあり、同じような見方は難しいのですが、ミニアプリという性質上、配布される報酬目的で複数のコンテンツを渡り歩くタイプのプレイヤーが多い印象です。
こうしたサービスは「定住する」という前提で作られていないため、プレイヤーは新しいコンテンツが出たらそちらに移行するのが自然だと考えています。
これはゲームでも同じで、1つのタイトルをやり尽くしたら次のタイトルへ移るのは当然の流れ。そこで大事なのは「その過程で得た資産をどう活用できるか?」という点です。
配布される暗号資産やトークンだけでなく、NFTを代表とするゲーム内のデジタルアセットをプレイヤーが築いた資産としての可視化や「次のサービスでも使える」ようにすることでのロイヤリティ体験が得られる仕組みを実現したいと考えています。
スクウェア・エニックスは多くのIPを持っており、既に多くのIPファンが存在していますが、カジュアルなゲームを入り口にして、より広いお客様に当社IPを認知していただく機会にもチャレンジし、IPの世界にディープダイブできる仕掛けも重要だと考えています。
奥田 スクウェア・エニックス様はクリエイターの力が非常に強い会社だと思っています。
コミュニティの意見を取り入れることが重要だとしても、個人のクリエイティビティとのバランスをどう取るかは非常に難しい問題だと思います。
実際にWeb3のプロジェクトを進める中で、この「線引き」に関してどのように考えていますか?
畑 そうですね。適度な距離感はすごく重要だと感じています。
運営側がコミュニティに深く関わりすぎると、事業者とユーザーの境界が曖昧になってしまい、どこまでが「運営の責任」で、どこまでが「ユーザーの意見を反映すべきものか」が分からなくなってしまうと思います。
特に、弊社のような「クリエイター文化が強い会社」では、開発者は「自分の考えた最高のものを作って提供する」という意識を持っています。
従来のゲーム開発では、「ユーザーの意見を聞いて調整する」ということが多くありませんでした。
しかし、F2P(Free to Play)を代表とするモバイルゲームが浸透し、従来よりも遙かに多くのプレイヤーがプレイする運営型のタイトルが増えてくると、ユーザーの声を拾う仕組みが必要になりました。
これによって、開発側も「お客様の反応を見ながら、数ヶ月単位でコンテンツを調整する」というスタイルが定着してきましたが、それでも10年先のコンテンツを完全に計画することは難しいです。
そういう意味では、F2Pの文化が浸透してきたことで、開発と運営のバランスを取る流れができてきたと感じています。
だからこそ、「オフチェーンのコンテンツはある程度、開発側が設計する」、「オンチェーンのコンテンツはプレイヤーのデジタルアセットを活用した設計が重要となるため、自由度を持たせる」といった線引きも必要になってくると考えています。
奥田 クリエイティビティを、オンチェーンとオフチェーンの役割分担と関連づけるという考え方ですね?
畑 はい。また、オンチェーンコンテンツは「売上の設計が非常に難しい」という課題もあります。
通常のゲーム開発では、ターゲット層を決め、売上予測を立て、その範囲で開発費やマーケティング費を決定していきます。
しかし、オンチェーンコンテンツの場合、ユーザーのデジタルアセットがマーケットプレイスや直接の取引に加え、焼却による需給の調整が行われるため、収益モデルを確立するのが非常に難しいです。
例えば、「ギアプレス」を立ち上げたときも、NFTのインターオペラビリティを実現するための取り組みであり、特に収益性に対する答えは限りなく低くなる前提で、実証実験という形で取り組むことになりました。
設計が難しいからやらないのではなく、ある程度の仮説がある前提であれば、このようなチャレンジを応援してくれる会社との対話は重要ですし、これらを経験値として今後に活かしていく必要があります。
だからこそ、「どのようなステップでオンチェーンコンテンツに移行していくのか?」を慎重に議論する必要があります。
ブロックチェーンゲームとファンジブルトークン
奥田 ブロックチェーンゲームといえば、「ファンジブルトークン(FT)」とは切っても切れない関係にありますよね。
プレイトゥアーン(P2E)のようなモデルも可能性があると言われながらも、「トークン価値にゲームが振り回される」という問題も見えてきています。
畑 実際にプレイヤーとしてWeb3ゲームを触っていると、トークンの価値がゲームのモチベーションにどう影響するのかを考えさせられます。
S嶋 FT(ファンジブルトークン)があるゲームとないゲームのどちらに魅力を感じるかというと、やはり「あるゲーム」のほうが魅力は感じますね。
これは設計の問題もありますが、「日常のゲームプレイとFT獲得が結びついていると、モチベーションが上がる」んですよ。
NFTの場合、基本的に希少性が高いため、頻繁に手に入るわけではありません。しかし、FTであれば、「1時間プレイすれば、これくらい獲得できる」「効率を上げるために、戦略的にプレイする」といった要素が出てきて、ゲームをやり込む理由になるんですよね。
例えば、eスポーツの賞金付き大会があると、本気で練習しようと思うじゃないですか。それと同じで、「このゲームをプレイすることで何かしらの対価が得られる」と分かると、より没頭できるんです。
私は個人的に、「稼げる・稼げないに関係なく、ゲームはずっとやっていく」つもりですが、それでも「プレイに意味が生まれる」という点で、FTがあるゲームの方が楽しいと感じますね。
とはいえ、トークンの価値維持は非常に難しいので、多くのP2Eゲームは短命になってしまうのも事実ですが……。
畑 モチベーションに影響を与えるのは確かですよね。
このあたりの「トークンの価値があるからこそモチベーションが上がる」という心理は、ユーザーにどのように体験してもらうかという点においても重要だと思っています。
Web3ゲームを知らない人にとっては、「1トークンをもらうことが、なぜ楽しいのか?」という部分から理解してもらう必要があるので、そのナラティブ設計をどうするかが課題ですね。
Web3入門としての「資産性ミリオンアーサー」

S嶋 エデュケーションの観点でいうと、Web3ゲーム初心者に「とりあえず触ってみろ」と勧めていたのは『資産性ミリオンアーサー』でした。
少額の範囲で、安全に「ブロックチェーンゲームとは何か?」を体験できる入り口として最適だったと思うんです。
現在は終了してしまいましたが、今振り返ると「Web3の導入として適したゲームだったな」と改めて感じますね。
資産性ミリオンアーサー公式サイト(外部リンク)畑 そうですね。『資産性ミリオンアーサー』は、できる限りWeb3用語を排除しつつも、裏側ではブロックチェーン技術に触れられる設計になっていました。
「ギアプレス」でも同じような考え方を取り入れていて、大量のNFT(ギアシール)が発行される仕組みになっています。
本作では「自分でNFTを発行する」体験をしてもらうことを重要視した設定にしています。
残念ながらサービスは3年の運用を経て2024年10月に終了しましたが、将来的には、そのNFTが「GP」に変わり、提携先のコラボアイテムなどに交換できる仕組みを作りました。これにより「NFTが何かしらの価値に変わる」という感覚を持てるように感じられたと思います。
こうした設計は、Web3業界の用語や仕組みが難解であるが故の入門的な考えがあるからです。
「プレイトゥリクープ(Play to Recoup)」の概念
奥田 ブロックチェーンゲームの面白さには「純粋なゲーム体験」「投資の回収」という2つの異なるベクトルがありますが、2つのバランスについてどのように考えますか?
畑 ちょうど今日、AIと壁打ちしながら考えていたのですが……(笑)。
今、「プレイトゥアーン(Play to Earn)」や「プレイトゥエアドロップ(Play to Airdrop)」など、さまざまな概念が登場していますよね。
こうした概念と実態を踏まえると「プレイトゥリクープ(Play to Recoup)」という表現も妥当ではと思っています。
「自分が投資した価値が、ちゃんと回収できるかどうか?」が、ユーザーのモチベーションになっているのではないでしょうか。
奥田 確かに、プレイトゥリクープという考え方はしっくりきますね。
S嶋 私も、その感覚はすごく理解できます。
畑 F2P(Free to Play)が出てきたときは問題ありませんでしたが、その後、急に「トゥアーン(To Earn)」の概念が出てきて、違和感を持つ人も多かったと思います。
実際、Web3のゲームが登場し、暗号資産やトークン、NFTに代表されるデジタルアセットが最終的に法定通貨に変えられる仕組みが登場したことでゲームにおいても「投資回収できるかどうか?」の重要性が高まったのだと考えています。
この考え方が全てではないですが、エンタテインメントを通して、学んでいただく意味も含めて、お客様にどのように浸透できるかが今後の課題ですね。
奥田 プレイトゥリクープ(Play to Recoup)という考え方は、単にお金の話だけではなく、「かけた時間」も含めて、「何かが戻ってくると良いよね」という意味合いがあるのではないかと思います。
S嶋さんは、ソシャゲのヘビープレイヤーだと思いますが、このあたりの感覚の違いについてどう思いますか?
S嶋 私がWeb3の世界に飛び込んだきっかけは、まさに「その体験の違い」でした。
ソシャゲって、新しいガチャが来るたびに20~30万円課金して、月に2~3回は追加で課金しないとついていけないみたいな状況があるじゃないですか?
そうなると、「結局、どれだけ課金しても、ゲームが終われば何も残らない」という感覚が強くなってくるんですよね。
「お金を入れるハードルの低さ」という点では、私はむしろWeb3の方が気軽に感じるんです。
畑 Web3のゲームならブロックチェーンに刻まれたデータによって、「何も残らない」可能性がゼロではない。でも結局「従来のゲームコンテンツの面白さが勝つ」から、後者を遊んでしまいがちです。
ただ、もし「Web3でも同じくらい面白いコンテンツが出てきたら?」となると、状況は変わるかもしれません。この場合、面白さ(継続して遊んでもらうための仕組み)の定義は、簡単ではありません。
プレイヤーの可処分所得や可処分時間も年々変わってきているので、同じようなゲームフォーマットを作っても「レッドオーシャン(競争が激しい市場)」になりがちです。
だからこそ、「今の時代にフィットする新しいコンテンツを考えなければならない」。その1つの可能性としてのブロックチェーンを活用したコンテンツがあると考えています。
S嶋 元々、通常のアプリゲームとしてリリースされていたものが、Dapp版でも出るケースがあります。そういう場合、私は「Dapp版の方が圧倒的に良い体験だった」と感じます。
なぜなら、「遊びの中で何かが還元されるから」です。
これは、他のゲームにも当てはまると思います。「Web3版とWeb2版があった場合、どちらが選ばれるのか?」というのは、今後の日本のゲーム市場にとって興味深いテーマだと思います。
畑 その通りですね。
例えば、ゲーム内で遊んだ分だけ、頑張った分だけ暗号資産がもらえ、そのままゲームにも利用できるという仕組みがあるとします。
事業者視点で見た場合、この仕組みは、「プロモーション費用の還元」であると考えています。
暗号資産を使ってプロモーションを実施後、ユーザーは、その暗号資産を獲得するためにコンテンツをプレイします。暗号資産獲得後、さらにコンテンツを楽しむための原資として、暗号資産を使って決済をすることで、事業者には収益として還元されます。
もちろん全てのユーザーが同じ行動をするわけではないですが、このような仕組みは、クレジットカード決済のハードルが高く、暗号資産+ウォレットが普及しやすい国等にも有効な手段となるはずです。
しかし実際には、「暗号資産をもらえる」と聞くだけで、(まだ多くの)ユーザーが「うーん……」と抵抗を感じてしまう。
だからこそ、どのように訴求させるかがすごく重要だと思っています。
S嶋 マーケティング費用として考えると、すごく分かりやすいですね。
一般的には「仮想通貨って何のためのもの?錬金術なの?詐欺じゃないの?」という印象でためらいを感じるゲームユーザーも多いと思います。
そこで、「ゲーム会社がユーザーに還元するマーケティング費用です」と説明すれば、納得しやすくなるように感じます。
畑 日本の法律においては、暗号資産を扱う上で注意すべき内容などが存在しますが、ゲームの仕様やプレイの方法によっては法令リスクを低減させることは可能となります。そのため、安心して遊べるゲームとして認知されやすくなると考えています。
「ゲームをお得に遊べるポイント」「プロモーションの一環として提供されている」こうした要素が強調されれば、より受け入れられやすくなるでしょう。
Web3の技術を活用しながら、「お金の匂いをあまり出さずに、純粋にゲームとして楽しめる設計」を目指したいですね。
今後のWeb3×スクエニの展開

SYMBIOGENESISの進捗と資産性ミリオンアーサー
奥田 最近の活動や、今後の予定について教えていただけますか?
畑 現在、「SYMBIOGENESIS(シンビオジェネシス)」というプロジェクトを運営しています。

全6章構成で、現在3章まで完了。4章がまもなくスタートし、完結に向けて進行中です。
また、「ギアプレス」というプロジェクトもあります。これは「資産性ミリオンアーサー」のサービス終了後、「残ったNFTを活用できないか?」という発想から生まれました。

現在、NFTをバーン(焼却)してGPに変換する仕組みが機能しており、すでに50,000枚以上のNFTがバーンされています。
これこそ、「NFTのインターオペラビリティ(相互運用性)」を実現するための事例の一つですね。
S嶋 ありがとうございます。「SYMBIOGENESIS」について少し質問なのですが、現在3章まで終わっていて、次は4章が始まるとのことですね。

今まで「SYMBIOGENESIS」を触ったことがない人でも、これから始めて楽しめるでしょうか?
畑 はい、十分楽しめると思います。
1章から3章までのコンテンツは、サービスが運営されている間はストーリーを最初から追えるようになっています。なので、新規プレイヤーでも「最初から物語を楽しめる」仕組みになっています。
また、ゲーム内には「NFTを持っていないと解読できない要素」や「特定のアイテムを探す楽しみ」もあります。こうした要素は、ディスコードに参加したり、X(旧Twitter)のハッシュタグを見たりしながら、「プレイヤー同士で考察を楽しむ」ことができるのが特徴ですね。
ですので、「ソロプレイでも十分に楽しめるコンテンツ」になっていますし、特に考察が好きな人には向いていると思います。
SYMBIOGENESISはなにから始めれば?
この記事を読んで「SYMBIOGENESIS」に興味を持った人が、「最初にやるべきこと」は何でしょうか?
畑 まずは、
- 「ディスコードに参加する」
- 「X(旧Twitter)で #SYMBIOGENESIS を検索する」
- 「公式サイトにアクセスする」
この3つのどれかですね。
公式サイトでは、「ウォレットがなくても遊べるゼロ章」が用意されているので、まずはそこから試してみるのがオススメです。
インストラクションに従ってブラウザ上で遊べるので、「Web3の知識がなくても手軽に体験できる」仕組みになっています。
SYMBIOGENESIS 基本情報
スクエニのWeb3展開とIP戦略
奥田 「資産性ミリオンアーサー」から始まり、「ミリオンアーサー」ブランドを軸に展開されてきた印象があります。
今後、「ミリオンアーサー」以外のWeb3展開は考えていますか?
畑 可能性としては、いろいろ模索している段階ですね。
どのIPを使うかは、「提供するコンテンツの設計」によって決まってきます。
確かに、「Web3=ミリオンアーサー」というイメージを持たれている部分はあると思います。それ自体はありがたいのですが、「より多くの人にWeb3コンテンツを触ってもらう」ことを考えると、認知度の高いIPの活用も視野に入れる必要があると思っています。
ただ、まずは「Web3ゲーム」という表現を全面に押し出すのではなく、「どういう体験を提供するか?を軸に伝えていくことになると思います。
今の市場では、「ブロックチェーンゲーム」や「NFT」と聞いただけで拒否反応を示す人もいる」というのが現実です。
奥田 他のゲーム会社様の話を聞いていても、「いかにブロックチェーンと言わずにWeb3要素を取り入れるか?」が1つのテーマになっていますね。
畑 そうです。だからといって「やらない」のではなく、「どうすれば自然に浸透させられるか?」を考えるべきだと思っています。
Web3を活用することに対して、会社としての意思決定もしっかり行いながら、適切なタイミングで展開していくことが重要ですね。
せっかくこれまで積み重ねてきた知見があるので、単に「Web3はダメだった」で終わらせるのではなく、「このやり方ならアリかもしれない」という方向に持っていきたいと考えています。
Web3が「特別でない状態」を目指して
奥田 もともと、「Web3って言わなくていい状態が理想」みたいな話もありましたよね。
畑 そうですね。
例えば、モバイルゲームが出始めたころ、「基本プレイ無料(F2P)」というモデルが定着するまでは時間がかかりましたよね?
もともとは「落とし切り(買い切り)型」のゲームが当たり前だったのに、今では「無料で遊べるのが普通」になっています。
同じように、Web3の要素もいずれ自然に浸透していくと思っています。
「ウォレットがないとログインできない」「NFTがアイテムとして存在する」といった要素が、特別なものではなく、単なるログイン手段やゲーム内機能として受け入れられるようになるはずです。
奥田 「SYMBIOGENESIS」も「ギアプレス」も、そういう未来に向けた試みの一環ということですね。
今後、新しいプロジェクトについてもぜひお話を伺えればと思います!
畑 ありがとうございます!
これからも、新しいチャレンジを続けていきますので、ぜひ今後の展開に注目してください!
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